ミクリミトロポリVI:ヤマシタ作品


ある晩夕飯を作っていて、砂糖を入れようと思ってキャニスターの蓋を開けたら白い砂糖が5万匹のありで真っ黒になっていた。ショックのあまり声も出ず、そのままふたを閉めて元にもどし、肉じゃがに砂糖を入れることは断念した。夕飯が終わって、食器の後片付けをしていると、砂糖ケースのありのことが気になりはじめた。狭い家の中のどこに居てもあり同士が軋みあってぎゅうぎゅういう音が聞こえる様で、気持ちが落ち着かない。寝床についてからもその音は鳴り止まずかへって大きくなる様に思はれた。とうとう夜中に起き出して、戸棚を開け、砂糖ケースを取り出した。白い陶器のケースなので中は見えないが、さっきより確かに重くなっているのが、恐ろしかった。思い切って蓋を開けようとするが、なかなか開かない。蓋が壊れているというよりは、内側から引っ張っている様な具合である。すっかりいらいらしてきたので、窓を開けて、庭の公孫樹めがけて抛り投げてしまつた。辺りはすっかり静かになって、しんしんと夜が更けているということだけがはっきりわかった。安心して再び寝床に入りうとうとしていると、外で何かざわざわいう音が聞こえる様な気がした。また、起き出して、庭に下り、公孫樹の根元に寄ってみたが、変わったところは見当たらない。ただ湿った風が木の根元を通り過ぎていった様である。すると、俄かに大粒の雨が降り出して、稲光が走った。青い光が暗い空と木の境を照らすと、枝という枝にきらきら光るものが無数についていた。よく見るとそれはミミズクの目で、5万匹のミミズクが梢に止まってじっとこちらを伺っているのだった。

以上、内田百ケン「東京日記」風に作品解説してみました。 E.J.さん日傘ありがとう。



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「かば焼き、やわた焼き、きもすいなどが普通である。ただし真のうまさは白焼きにかぎるやうだ」


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「ポピドンヨードの空」


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「It’s too real for my brain」


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「炎天瓢箪」


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